覆水盆に返る。

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S商事の北関東支社が完成に近づいた3月下旬。 悠太は常務に呼び出される。 「えっ?今、何て?」 悠太は驚きを隠せないまま常務を見る。 「君さえ良ければ、またS商事に戻らないか?と言ったんだ!」 「でも…自分は………。」 戸惑う悠太に構わず、常務は話を続ける。 「給料はこのくらい。 役職は北関東副支社長として、杉村の補佐をしてもらいたい。 公私共にだ!」 「副支社長?公私共に……?」 悠太はますます混乱する。 常務は大きな咳払いを一つしてから話し始める。 「君には、杉村に負担が掛からないように、栞ちゃんの面倒を頼みたい。 仕事はその合間にしてくれればいい。」 「栞さんの面倒は見ますが、副支社長なんて、自分には務まるかどうか………。」 「業務上の副支社長は他にいるから、心配はない。 杉村は栞の事が負担で、栞と離婚したがっている。 しかし、離婚は杉村にも栞にもマイナスだ。 そこで陰で君に補佐をしてもらって、栞の看病と仕事を両立させれば、杉村の株は上がるだろう? 私だって、親友の娘である栞をみすみすバツイチにはしたくないんだよ。」 「………………。」 悠太は返事に困る。 栞の傍にいたいが、体裁のためとは言え、そんな状態を知ったら、栞は間違いなくまた自分を責めるだろう。 「君は『自分に出来ることなら何でもする。』と、栞に言ったよな?」 常務は脅しにかかる。 「はい。ですが、コレは栞さんの意志じゃないんですよね?」 「今の栞に意志などあるものか! 栞はおマエにしか反応しない! 言い換えれば、おマエが栞の生死の鍵を握っているんだ! 栞が元に戻れるまで面倒見るのがおマエの義務だ! 断るのなら、栞には会わせん!」 「…わかりました。全力を尽くします。」 悠太は常務の勝手さに怒りを覚えるが、栞の為に我慢する。 「頼んだぞ!!」 常務が悠太の肩をたたく。
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