決断できない30歳

2/55
前へ
/134ページ
次へ
俺は車を走らせる。 妻も子どもも乗せず、一人で運転するなんてどれくらい振りだろうか。 しかもちょっとした遠出。 高速道路から臨む景色は少々淡白だが、僅かながらの解放感を俺は感じていた。 自由。 そんな言葉が浮かぶ。 広がる青空。 春を思わせる陽気。 そして、カーステレオから流れる音楽。 自由。 その言葉を、もう一度。 軽快な音楽。 ハンドルを持つ手でリズムを刻む。  空の下  僕らは飛び出し  今日も歌をうたう 思わず口からこぼれ出るフレーズ。 この歌は、自由を唄っている。 音楽を奏でる人達は、きっとそれぞれに自由を感じ、求めているのだろう。 10年前の俺。 この音楽の向こう側にはそいつがいる。 あの頃の俺は、こんなにも自由に満ち溢れていたんだな。 さらに記憶をなぞるように、俺は歌詞を口ずさむ。 唯一残していたあの頃の音源CD。 懐かしい思い出と共に押し入れの奥から引っ張り出したそれは、一本の電話が切っ掛けだった。
/134ページ

最初のコメントを投稿しよう!

19人が本棚に入れています
本棚に追加