走り出せ、俺達

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まさかの厚遇。 練習環境が整っているというのはバンドにとって大きなプラス。 「何か悪いな、リョータ。全部面倒みてもらってよ」 いやいや、とリョータは首を振る。 「いーっていーって。俺だって何もしてねえし。感謝するんなら社長にしてくれよ」 そういやこいつ、音響会社だったな。 事業ってのもその繋がりか。 そんな話を少し話し込んでいると、突然アンプからギターの大きな音がする。 オカジマが既にギターを繋いでいたようだ。 「いーんじゃね、これ。お前らも早く準備しろよ」 嬉しそうな顔。 とはいえそれはこっちも同じ。 持参してきたかつての相棒に久しぶりの電気を通す。 セッティングとか細かいことは後でいいや。 とにかく、音、出したい。 ボボボン。 弦を弾くとアンプから飛び出す中低音。 ジャズベース特有の丸みのある音が空気を震わせる。 背筋がゾクッとなる。 やはりエレキの醍醐味はこの音量。 リョータもリョータでバスドラの音に浸っている。 そんなに叩かなくてもいいだろうというほどキックを刻む。 やはりそうだった。 いつまでたっても俺たちは音楽を忘れていない。 どれだけ時を経ても変わらないものが俺たちの中にはあった。 そう思うと、心の底から嬉しくなった。
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