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季節は夏。
照り付ける陽射しは容赦なく、背中の辺りが焼けるように暑い。
歩いているだけなのに鼻の頭に汗の玉が浮き、渇いて塩になる。
圧倒的に時間帯をミスったとしか言いようがない。
「お前、日焼け止めとか塗ってる?」
隣を歩くユキヒロが問いかけてくる。
「あたりめーだ。俺は皮膚が弱いから、焼けたら軽い火傷みたいになっちまうからな」
とはいえ、それでもこの陽射しはきつい。
澄み渡る青空。
一年で一番濃い青色。
うるさいくらいに奏でられる蝉の声。
夏。
かつては無駄に心踊る季節だった。
解放感という言葉に惑わされ、なんでも許されると勘違いしてしまう魔性の季節。
30回目のそれは、ただ暑いだけだった。
「あったあった。あれだろ」
ユキヒロが指差す。
俺たちは、墓地に来ていた。
ノブの墓参りに来たのだが、知らない墓地はまさしくただの石群。
ノブのおばちゃんが几帳面な詳細図を渡してくれたからいいようなものの、下手したらこの灼熱の炎天下、延々と無限回廊をさ迷うかのごとく探訪に明け暮れる羽目になるところだった。
―つい先日。
連絡をよこしてきたのはユキヒロだった。
ノブの死が告げられ、バンドを再結成してから2ヶ月ほどの時が過ぎていた。
その間、音沙汰がなかったので、第一声、結婚がご破算になったのかと冷やかしてやった。
苦笑まじりに、余計な心配ご苦労さんと返すユキヒロ。
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