第零話~始まりの始まり~

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 空には厚くて黒い雲が覆っていて、星や月の輝きを遮っている。 「今日も無事に生き抜くことができた」 と青年は呟く。  ここは青年の故郷の日本という国の山にある深い森の中。とても深い霧に包まれている。  逃亡中の身としてはありがたい。  青年の名前は武藤裕司。生まれも育ちも日本であるがここ数年は世界各地を転々としている。転々としているというよりは逃げ回っているといった方が正しいだろう。  裕司は俗に言う超能力者だ。  世界には数こそ少ないが、超能力という人には過ぎた特殊能力を使う者がいる。一般的な超能力はスプーンを曲げたり、小石を浮遊させたりする程度のものであるが、特殊なものは火や水を自由自在に操るらしい。らしいというのは裕司が見たことがないからであるが実際にいるのだろう。事実裕司のような超能力者もいるのだから……  様々な国や組織ーー主に先進国ーーでは超能力の研究が行われているのは、超能力を知る者からすれば容易に想像できるし、衆知の事実だ。いまだ科学的に証明されていない超能力だが、もし人為的に使えるようになれば戦争のためであろうが、人々の生活のためであろうが大きく貢献することに間違いないだろう。  ただでさえ数少ない超能力の中で、裕司は異例中の異例の能力故に狙われるのも頷ける。  昼夜問わず、暗殺者や超能力者などが様々な国、組織の依頼をうけて主に捕縛、たまに暗殺にやってくる。それでもここまで逃げきれているのは裕司自身の超能力のおかげに他ならない。  自分の身を守るため何十人もの人間を殺してきたし、それが悪いこととは思わない。誰だって自分の身に危険がふりかかれば、特に命の危機にさらされれば必至に抵抗するはずだ。  
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