第一話~in 異世界~

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 巨大な銀色の狼と裕司の距離は目測15メートル。 グルルルルルゥ  狼は低い声で威嚇してくる。ここは俺の縄張りだから今すぐ出ていけ、という意味なのか、武器も含めて裕司のことを警戒してなのか、それとも今からお前を殺すという宣言のようなものなのか……… 「まあ何でもいい。お前が俺に倒されるということに変わりはない」  裕司は改めて戦闘体制に入った。裕司の雰囲気がかわったのを察してか狼も威嚇を止め、いつでも動ける体勢をとる。  お互いがお互いの動きを観察し、隙を窺う。どちらかが動き出そうとすればもう一方がすぐさま反応し、動こうにも動けない。  額からは大量の汗が流れ落ちる。この静かな攻防は数分間続いた。  不意に狼が動いた。  裕司に隙を見つけたからではなく、互いに動けなくなった状況を嫌い打破しようとしたのだろうが、裕司に言わせれば意味のない無駄な動きで隙をつくったにすぎない。  狼が大きく一歩を踏み出した直後、裕司は下半身に溜めていた力を一気に解放し、刹那、裕司の足元の地面が大きく陥没した。一瞬で狼との間合いを詰め、腹の下に潜り込んだ。あまりの速さに狼は反応しきれていない。裕司はスピードに乗ったままその手に持つ、文字通り“特長”の二振りの刀に体重を乗せ、心臓めがけてひといきに貫いた。あたりに鮮血が舞い上がり、裕司もろとも真っ赤に染める。  この間わずか一秒。  どんな生き物も急所を貫かれれば生命活動を維持することは不可能であり、その狼もまた例外ではなかった。  ドスンッ!! と大きな音をたてて、雄々しい強靭な肉体の持ち主は地面に崩れ落ちた。いつの間にか狼との距離をあけていた裕司は狼が最後まで崩れ落ちる瞬間を見届け、ふぅーとため息を一つ。刀を異空間に戻し、 「なんだかんだいってあの狼より俺の方がよっぽど化け物だな」 と自嘲気味に笑った。
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