混沌の始まり

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『……フィー、愛しい人……お別れだ……』  消え入りそうな声が彼女の耳に響く。 『あなた!』  白く美しい顔を涙で濡らし、若葉色の長い髪を揺らして 彼女は愛しい人を呼ぶ。 しかし答えは返らない。  人には見えない世界樹精霊。 泣き叫ぶその傍らに、無惨にも切り倒された切り株。 彼の痕跡。 『護ってやったというのに……おのれ!おのれぇ!!』  片割れの損失の大きさに魂を引き裂かれ、彼女は呪いの言葉を繰り返す。  ……と、自分の根元。 まだ若木の頃に折れた部分に愛しい人の気配を微かに感じた。 『あ、あの人の……』  その部分に接ぎ木をしたように切り倒された雄の世界樹の細い枝がそっと息づいていた。
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