彼岸花

終わりが、始まる

　ルシエナ・Ｍ・ローゼンバーグという十五才の少女は、「幸せとは何か？」と聞かれてすぐに思いつくような幸福を全て持っていた。

　由緒正しき家柄。金持ちの親元。何でもそつなくこなす器用さと、才能。女性までをも虜にするほどの可愛らしく整った容姿。仲の良い友人たち。

　しかしそれ故に、彼女は満たされなかった。

　新しい趣味に目覚めてもすぐに高みまで上ってしまい、それ以上が無くなる。スポーツにおいても、大半のものは既に経験済みだし、それら全てにおいてかなりの成績を残している。

　まさに、神童。

　しかし、それ故すぐに熱が冷める。

　彼女にしてみれば、才能などもはや不要の物であった。

　しかしそれでも彼女は笑顔を作り、明るく振る舞う。周りの空気を壊さぬ為に、周囲の人間に嫌われぬ為に。

　いつしかどれが本当の笑顔で、どれが偽りの笑顔かも解らぬくらいに。

　しかし、そんなルシエナが、衝動を抑えられないといった風にそわそわと落ち着きのない行動を繰り返している。

　あっちへ行ったりこっちへ行ったり。

　そんな彼女を、大らかな微笑を湛えて見つめる壮年の男性。