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魔法陣は、鍵に吸い込まれるように溶けた。
カチリ
金属音が小さく鳴って、重い鎖がほどけていく。
「シルバ。お前は、日本と言う国を、学んでおいで」
狼姿のシルバに、白ばばさまは告げる。
「地上は、こことは違い日も上るし、月も沈む」
言っている間にも、鎖はどんどんほどけ、扉からは一筋の光が射し始めた。
「人間界にいるときは、満月の夜しか、狼になれんからな?」
人が通れるくらいまで開いた扉。
「最初は体が安定しないかもしれぬが、そのうち慣れるだろう…」
前足を、踏み出すシルバ。
「健闘を祈るぞ」
灰色のしなやかな体は、扉の向こうの光の中に落ちて行くのであった。
「白ばばさま」
「ああ。行ってしまったな…」
寂しそうに、閉じゆく扉を見つめる白ばばさま。
「あ」
「どうかしました?白ばばさま」
「迎えに行く期日を伝えるのを忘れたわい」
……前途多難そうなシルバの旅はこうして始まったのでした。
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