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 ばしゃばしゃと音を立てながら、海水を割って歩く。  ようやく胸の高さにまで届いた冷たさに、心が逸る。  もう少し。あと少し。  まだ大丈夫。まだ行ける。 「――何してんの!」  唐突に、腕強く引っ張られた。  体が大きく後ろに傾いて、灰色の空が視界いっぱいに広がる。 (空より海の方が、綺麗ね)  足の裏が海底を見失った。  ふわりと浮くような感覚が一瞬、ばしゃんと大きな音を立てて、体が沈む。  全身を包む冷たさのなかで、誰かに体を掬われた。  服越しに感じた腕は力強くて、火傷しそうなくらいに熱かった。
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