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「自殺じゃあ、ありません」    彼の口の動きが、ぴたり、と止まる。  今度は私が喋る番だった。 「海に行きたかっただけです。死ぬつもりとか、ないです」    海にいきたかっただけ。  死ぬつもりなんてこれっぽっちも無かった。  だから急に髪を引っ張られてとても驚いた。  今もどうして連れてこられたのか分からない。    それらのことを彼に伝えると、数秒経って、彼の真面目で難しそうな表情が崩れた。 「……良かったぁ」  きっちり組んでいた正坐を崩し、彼は右手で自分の髪の毛をぐしゃりと掻いた。  硬い表情から一転、力が抜けたようなふにゃふにゃの笑顔が浮かんでいる。  またも私は置いてきぼりを食らったような気がした。  
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