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青年の入っていた箱から静かにふわりと浮かび、地へと足を着けた。
黒にも見える色彩が濃いめの青い長髪の髪は、重くなり、ぽたぽたと雫を垂らす。
瞳の色は透明感に溢れている美しい金色。
まるで、美を追求したような完璧すぎる顔立ち。
身にまとっている服は、繋ぎに近いが独自の模様や色彩に飾られ豪華や豊かさを思わせる。
細身ではあるが弱々しいなどの印象はない。
自分に近い箱に近寄ると、眉をひそめて見つめると、金具が外れていき、バッタンと乱暴に開く音が響いた。
――あぁ……と青年は目の前の光景に、人いうものに失望をしたことを思い出した。
カプセルの中にいた時に、微かに意識はあり身体を動かす事は出来なかったが、気配を読むことは出来た。
そして、神という立場だから感じた。
天寿を全うする前の命が次々と消されていく気配も。
「………っ」
箱の中には、濁りを帯びた体液の中に沈んでいる年端もいかない女の子だった。
どんなに痛かっただろう。
青年は、泣きそうな表情を浮かべて体液の臭いなど気にせずに、両の腕で女の子の小さく華奢な身体を体液から掬い上げた。
「さあ、逝くが良い」
女の子の髪の毛が揺らぎ、毛先から炎が立ち上る。
爪先、指先からも同様に炎が上がる。
女の子の身体が細かな灰となるのを最後まで見届けると、次の箱も、また次の箱も――女の子、男の子、少年たちの遺体を全て焼いた。
そして、最後に残った一人の少女。
血の溜まりにいる少女の身体を浮かべて、腕にそっと抱えた(かかえ)。
皮肉にも美しい銀髪は、血を映えされていた。
かっと小さな音が鳴り、足元を見ると、そこには白い龍の頭の髪飾り。
「――姫君か………」
不可解なものだ。
数百年前、自分をここに閉じ込めたのも王家。
数百年後、自分を解放したのも王家。
恨みと怒りの対象となるはずの王家。
その王家の死体を目の前にして、負の感情が浮かんで来ない。
「――あの声は、お前だったか………」
手紙を認めた――という記憶が浮かんで、青年は、少女がいた血の溜まりを再び見つめた。
笹船のように、揺れる赤い封筒が見つけて、少女と同じように浮かべて、空中で封筒から取り出して便箋を開き読んだ。
『貴方が自由になることを』
会ったこともない姫の最後の気遣い。
「――我が人を許す事をお前の死で償えるとも思うのか?」
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