それは、雲海の神

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少女の冷たく柔らかい唇は、青年の唇が触れてから段々と人の温かさを取り戻していく。 少女の身体は弓のように、背中が背反り重く閉じられていた両目が見開く。 苦悶の表情を浮かべて、青年に抵抗するかのように手足を激しく動かす。 光の被膜は、少女の身体に溶けるように爪先から下半身へと消え、流れるようにして一瞬の間に頭の上まで消えた。 横目で見届けると、青年は、少女から唇を離し、少女をじっと見つめた。 ――自分は死んだ筈だ。 それは、確かな記憶で身体がちゃんと覚えている。 どうして、どうして………。ここにいるの? 疑問だけが少女の考えを支配して、自問をするが、答えはない。 答え自体が疑問にしかならないのだ。 少女の最後の記憶には、自分の死だった。 「な、なに……?」 無意識のうちに少女の口から出た疑問の全てが込められていた。 「もうじき、分かる」 その声に視界に意識が向けられて、一人きりではなく青年がいる事に少女はやっと気づいた。 「だ、だれっ!?」 血に染まった唇を手の甲で拭いながら青年は、少女の問い掛けを無視した。 ドクン、ドクン……… 心臓の動きが全身に伝わるような不気味な鼓動の高鳴りと熱。 「――来たか」 静かで確信を持っている声に聞こえて、少女は青年を見つめた。 「姫なら、知っている筈だ。我は、雲海の龍神。お前は、私の所有物としての生を受けたのだ」 呆然として、ただ、青年を見つめていた。 高鳴りの鼓動と同じリズムで段々と感じてきた、鈍い痛み。 それは、目が集中的になっていき、鈍さをけして激痛へと変わっていく。 「あ、ぁっ!!」 歯を噛み締めて痛みをごまかそうとするが、それでごまかせる痛みではなかった。 そして、左の目が灼熱のような熱と激痛が一気に押し寄せた。 目の内側で何かが潜み動きまわまっているような感覚。 ご、と………。 床に落ちる音と一緒に、何かが抜け落ちる鈍い音と感覚。 少女は、右目で、音のした方向を見た。 ――まさ、か……… 眼球は、鏡でよく見た鋼色の灰色だった。 青年が少女の顎に手を添えて、視線を向けさせる。 じっと少女の顔を見つめて、ふと青年は、口元を緩めた。 「よく似合う」 透明感にあふれて、青とは言えない青い青い色の左目に青年が写されていた。
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