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「じゃ、行きますか!」
一喜が店のドアを開けて、美保を促す。
まるで銀座老舗のドアマンのように格好つけて。
バンドマンだけあって見てくれはいい。
妙にさまなっていて、遥はまたおかしくなった。
美保がそれに従ってそそくさと店を出ていった。
だからその顔が真っ赤に染まっていた事なんて、誰も気づくわけもなく。
「じゃあな遥」
そう言う一喜の背中は以前よりずっと大きく見えた。
「一喜」
思わず呼び止めた。
その瞬間は、ひと言謝りたいと思ったのだが。
振り向いた一喜の穏やかな顔を見たら、謝罪なんて不似合いな気がした。
「どうか、いい恋をしてね」
遥の言葉に、一喜は無言で少しだけ笑い、軽く手をあげて背を向けた。
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