物語の始まり

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「終わりましたよ、土方さん。」 子供のように無邪気な笑顔で、沖田は土方の元に駆け寄る。 「見てりゃあわかる。」 ぶっきらぼうにそう言い放ち、藍を見た。 藍は頭の中で、このあとの行動を考えていた。 負けたのだから、入隊は許されない。 だとしたら、どうやってお姉ちゃんと連絡を取ろうか……。 などと考えていると、ふと目の前に大きな影があった。 「あ…………。」 竹刀を担ぎ、藍を見下ろす土方。 きっと「帰れ。」とか言われるんだろうなぁ。 「立て。」 「へっ?」 意表をつかれ、間抜けな声が漏れる。 「立てと言ったんだ。」 「あ、はい……。」 腹部を押さえながら、立ち上がる。 さっさと出ていけということか? 「すみません、すぐに出ていきます。」 そう言うと、土方は眉間に皺を寄せた。 そして、思いもよらぬ一言を放つ。 「何を言っているんだ。合格だ。」 「…………はぇ?」 「お前は二度言わすのが好きなようだな……。」 土方の頬がぴくぴくしているのを見て、「すみません。」と謝った。 「でもっ、なんでですか!? 負けたんですよ、私!」 「端からこいつに勝てるなんざ思ってねぇよ。あれだけ総司の攻撃を避けりゃあ十分だ。それより……。」 土方は、持っていた竹刀で藍の腹部を軽く突いた。 「うがぁぁぁあっ……!!!」 あまりの痛さに、悶える藍。 沖田や原田はその姿を見て、くすくすと笑っていた。(と言っても、原田は豪快に唾を飛ばしながらで、くすくすという表現ではおさまらないのだが。)
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