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元治元年。
からりと晴れたいい天気の下で、言い争う男女がいた。
「離せっ、晋作!」
「馬鹿、離したら新撰組のところに突撃する気だろ馬鹿!」
「馬鹿って言った、2回も言った!」
意地でも前に進もうとする女と、それを必死で押さえる男。
女の名は花山院 藍花。
男まさりな性格が玉に瑕(キズ)の女の子。
一方の、藍花を押さえているのは高杉晋作と言って、端正な顔をした若い男である。
この二人は長州の者で、日々攘夷活動に精を出している。
「朱音が心配なのはわかるが、お前が行くのはダメだ。」
「だって、しばらく音沙汰もないんだよ!?」
二人が言い合っているのにはとある理由があった。
新撰組に女中として偵察に行っている藍花の姉 朱音からの連絡が途絶えたのだ。
不安になり様子を見に行こうとしたところ、高杉に止められた次第である。
「あいつは頭がいい。そんな簡単に殺されるような状況には陥らねぇ。」
「けど…………。」
しょぼくれる藍花を見て、そろそろ大丈夫だろうと高杉は腕を離した。
「やっぱりお姉ちゃんが心配だよ……。」
「そりゃあ俺だって心配だ。」
高杉は朱音や藍花と長い付き合いになる。
他人と謂えども心配するのは当たり前だ。
突然、背後から声がした。
「行かせてあげたらいいじゃないか。」
その声に振り返ってみると、にこりと笑った男が立っていた。
「栄太郎!!!」
「稔麿…………。」
嬉しそうな表情をする藍花とは裏腹に、ため息混じりに呟く高杉。
この男は吉田稔麿。
一見温厚そうに見えるが、実はそうでもない。
実際に、今も藍花に向かって毒を放つ。
「どうせばれても藍花が死ぬだけなんだし。」
「やっぱりそうきたか。おかしいと思ったんだよね、栄太郎が私の味方するなんて。」
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