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「副長、入隊希望者です。」
この人が副長……。
お姉ちゃんからの報告から推測して、土方歳三かな。
確か副長は二人いて、一人は仏のように優しく、もう一人は鬼のように厳しいだとか。
藍があれこれ考えていると、土方らしき人は藍を一瞥した。
「名は?」
「花山院 藍です。」
「…………原田、木刀持ってこい。」
「はいよっと。」
藍をここまで連れてきた男は原田というらしく、木刀がたくさん立てられている所から、一本、適当に選んだ。
この人は原田左之助ね。
十番隊隊長……だったかな。
「ほらよ。」
「へっ? わわっ!」
原田が軽く投げた木刀を、慌て気味に受け取る。
これを使って一体何をするのだろうか。
「構えろ、花山院。入隊試験だ。」
「に……入隊試験?」
まさかの事態に藍は慌て出す。
報告では、来るもの拒まずの新撰組だったはずだ。
入隊試験があるなど、聞いたことがない。
「相手はそうだな……。」
土方らしき人が周りを二、三度見渡す。
おそらく、藍と戦わせる相手を吟味しているのだろう。
「僕がやりますよ。」
その声は、藍の真後ろから聞こえた。
振り向けばにへらと笑った色の白い男が腕を組んで立っていた。
気配を感じなかった……。
土方はその男と藍とを見比べ、一つ頷く。
「いいだろう。お前も異存はねぇな?」
そう聞きながら、目では異存など受け付けないと言っている。
藍は、小さく頷いた。
この人なら、勝てるかも。
白く細い腕は、とてもじゃないが剣士には見えない。
少しだけ、緊張が和らいだのがわかった。
後で痛い目に合うとも思わずに……。
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