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土方の指示により、先程まで練習していた隊士達は道場を空けた。
中央で対峙する二人。
「よろしくお願いしますね。」
「こっ、こちらこそ、よろしくお願いします!」
優しそうだとは言っても、新撰組の一員。
それなりに強いに違いない。
審判は、原田がするようで、赤と白の旗を手にしていた。
始まるまでの空気が重い。
息苦しく、汗が頬を伝う。
一方の相手は、とても気楽に構えていた。
慣れているのだろうか、それとも馬鹿にされているのだろうか。
「はじめっ!」
そして、ついに合図が放たれた。
―――先手必勝!!!
藍は合図と共に足を踏み出した。
「……速いですね。」
そう言いながら、笑顔で躱す。
まだそれだけの余裕があるということだ。
「まだまだっ!」
次々と攻撃を浴びせるのだが、一向に当たらない。
すべてひょいと身軽に躱していくのだ。
攻撃が当たらず、徐々に焦りだす藍。
だんだんと息も荒くなってきた。
「やぁっ!」
力を込め、木刀を目一杯振り下ろす。
しかし、相手に受け止められ、そのまま弾かれてしまった。
「あっ!!!」
「なんだ、つまらない。もう少し強いのかと思ったのに。」
相手から、笑顔が消えた。
「すみません、弱い人には興味がないんです。
残念ですが
死んでください―――……。」
冷たい目。
その奥に見えた殺意。
身体が震え上がった。
先程までの笑顔はなく、振り上げられた木刀。
それが、綺麗な弧を描いて、藍に近づく。
誰もが、相手の勝ちを確信した。
しかし。
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