第十一話 約束

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「ほらほら、主の命令よ?」 おちょくるような視線を送りながら、咲夜を促す。 一方咲夜は真っ赤にさせた顔をブンブン横に振って、 「い、いけませんそんな私は従者であってお嬢様とそんな」 早口な小声で聞き取りづらいが、否定の言葉を並べているらしい。 小動物のようで可愛らしい仕草だ。 レミリアは見たいものが見れて満足したのか、紅茶を自分の口につけて少し啜った。 「私と結構長く居るんだから私の気持ちくらいわかってるでしょ?でも咲夜の口から答えは聞いて無いわ。自分だけ言わずなんて酷いんじゃないの?」 咲夜は黙って俯いている。 真っ赤な顔からは湯気が出ているようにさえ見えた。 どうやら答えを躊躇っているらしい。 背を向けてだんまりを決め込んでいる咲夜に、レミリアは紅茶をテーブルに置いて近づいた。 「主人と従者がどうこうとか、種族云々とか抜きにして、貴女は私をどう思っているの?咲夜」 「そ…それは…その…」 もにょもにょと何かを呟いている。しかしまた黙り込んでしまった。 と、レミリアが後ろを向いた瞬間だった。 咲夜が、レミリアの頬にキスをした。 呆気にとられたような顔をしたのも束の間、レミリアはすぐ余裕のある笑みを戻し、 「それで返事のつもり?」 と問いかける。 咲夜は小さく頷いた。 真っ赤に染めた頬は林檎のようだ。 咲夜はきゅっと目を瞑っていた。心臓の高鳴りが止まない。 しかし、いきなり唇を奪われ、目を見開いた。 同時に口の中に、香りの良い紅茶が流れ込んできた。口の中に香りが広がり、少し舌が絡まる。 少しして離した。咲夜にとっては何時間もそうしていたような感覚があった。 「お…お嬢様…?」 「美味しい?」 目の前の悪魔はにっこりした。 咲夜はレミリアの置いたカップを手に取ると紅茶を口に含んで、レミリアに同じように口移しした。 「……お返し、です」 相変わらず顔は真っ赤。 しかしその顔には微笑みが溢れていた。 「咲夜…貴女はずっと一緒にいてくれる…?」 「死ぬまでは、離れませんよ。」 「私と、永遠を共に生きてくれない?」 「…私は、本物の化け物であった方が楽だと思っていました。でも、お嬢様は私に『人間としての居場所』を与えてくださった。だから、私は人間でいたいのです。 大丈夫、死ぬまでは一緒に居ますから。」 死ぬまでがどのくらいのかは秘密です。 心の中でそう呟いた。 FIN.
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