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乃居駅北口改札、9時。
3m程の鉄柱の高さの先に付いた時計が待ち合わせの場所。
開館は9時30分。駅から歩いて10分も掛からないから、恐らく開館と共に飛び込める算段だった。
目の前に時計があるのに、剣人はわざわざ自分の腕時計を使って時間を確認する。
待ち合わせの時間を10分過ぎた。さて、どうしよう。
自慢じゃないが剣人は明の携帯番号を知らない。メールアドレスすら分からない。
(何かあったんだろうか)
別に寝坊や無視ならまだ良いが、途中で事故にでも遭ってたら、なんてイケナイ妄想が頭を過る。
自分の友人伝手に連絡でも取ろうと考えた、その時。
「遅れてしまってごめんなさいっ!」
駅の改札口から剣人を見つけるや否や、駆けて来る明の姿が見えた。
「と、途中で電車が停まって、…お待たせしてすみませんでした…」
息を切らし平謝りする明に「御気にせず」と短く告げて、剣人は
「無事で何よりでした」
と笑顔を送る。
「そんなに慌てなくても良かったのに」
「いえっ、…折角、誘って頂いたのに、こんな…ごめんなさい、私ったら…」
未だ息を切らす彼女の前にお茶のペットボトルを差し出す。
「どうぞ。まだ栓は開けていませんからご安心を」
「い、いいえ、あ、お気遣いなくっ!」
「いいから、飲んで。落ち着きましょう?」
きゅ とペットボトルの栓を開けて明に渡すと、彼女はまた小さく すみません と謝って口を付けた。
5分の一ほど飲んで息を吐き出す。
「はぁ…」
「少しは潤いましたか?」
「は、はい…」
「じゃあ、行きましょう」
ペットボトルを受け取って栓をすると、それはそのまま明に手渡した。
開館時間にはまだ十分に余裕がある。剣人はゆっくり歩き始めたので明もそれに続いた。
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