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静流は不意に、
「ハッ」
と目を醒ました。
あの後、どうやら眠ってしまっていたらしい。
彼は、部屋の片隅の壁掛け時計に目をやった。
「もう、18時か…」
時計の針は、18時を少し回った所を差していた。
そして、ゆっくりとベッドから起き上がると、部屋の小さなテーブルの上に無造作に置かれた、携帯電話と財布を手に取った。
静かに部屋のドアを開け、玄関へと向かう。
キッチンからは、食欲をそそる美味しそうな香りが漂って来る。
静流がキッチンを覗くと、若い女性が料理を作っているのが窺えた。
静流は、若い女性の後ろ姿を見ながら声を掛けた。
「なぁ、姉ちゃん…」
その声に反応を示し、若い女性が彼の方へ振り向いた。
「何?どうしたの?」
振り向いたその女性は、優しそうな雰囲気を纏っており、顔立ちは一見、女優と見紛う程の美人だった。
綺麗な栗色をした、真っ直ぐに伸びた彼女の長い髪は、彼女の魅力を更に、際立たせていた。
「ちょっと、コンビニに行って来る」
静流は、彼女にそう告げて玄関に向かった。
「もうすぐ、晩ご飯出来るから、早く帰って来るのよ」
キッチンを後にした静流に向かって、彼女は、やや大きめの声でそう言った。
「分かった」
その声に反応し、彼もまた、やや大きめの声で一言だけ、そう答えた。
彼女の名前は【霞 遥】。
静流の姉だ。
彼女は、静流とは6歳離れていて、小さい頃から何かと静流の事を気遣っていた。
端から見れば、過保護に見える部分もあったが、それ故か、余り人に心を開く事がない静流でも、彼女に対しては、素直に何でも話していた。
静流は、玄関を出てドアに鍵を掛けた。
『ガチャッ』
左手にヘルメットを持ち、そのまま、マンションの廊下を真っ直ぐ、エレベーターホールに向かってゆっくりと歩を進めた。
マンションのロビーを抜け、一直線に駐輪場へ向かう。
「また頼むぜ」
静流はそう言いながら、駐輪場に止めてある、彼の大切な宝物である、綺麗に輝くメタリックブルーのバイクを、駐輪場からゆっくりと引っ張り出した。
彼は、シートに跨がると同時に、ガソリンタンクを優しく、
『ポンポン』
と叩き、バイクの目を醒まさせる。
『キュルルル…。ヴォーン、ウォーンッ!!』
整備の行き届いたバイクのエンジンは、正に絶好調といった具合で、腹の底まで響く様な重低音を奏でた。
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