一語り

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五年前の夏。姉の日和(ヒヨリ)はドライブに出掛けたまま帰ってこなかった。 行方不明となった三週間後、警察から電話があった。 姉の乗っていた車が見つかったのだ。 姉は車の中にはおらず、数十メートル離れた祠の前で死んでいたのだ。 姉の死について知る者はいない。姉が姿を消し、今に至るまで姉を見た者はいなかった。 証拠不十分により、すぐに捜査は打ち切りになってしまった。 最終的に警察は自殺と言った。 姉は自殺などしない。そんな素振りも、辛い悩みを抱えていたという話もなかった。 母も父も怒っていた。それは捜査をしない警察に対してか、それとも姉を殺した誰かにか。 数日が経ち、姉の葬式が開かれた。雨の降る日に。 時が経ち、姉の存在は思い出に変わりつつあった。 いや、もう思い出になってしまったのだろう。 もう姉の声を思い出す事は出来ない。それ程の存在となってしまったらしい。 でもそれでいいんだ。 それでいいはずだった---。
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