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生暖かい、ぬるりとした感触。
耳に張り付いて離れない悲鳴。
立ち込める焦げた不快な臭い。
風に運ばれてくる死体の腐臭。
現実も夢も、絶えずついてくる。
「あぁ、嫌になる」
眠ることすら、身体が拒否を起こしはじめていた
「それでも、私達は戦わなくてはならない。それが沢山の命を奪った私達への罰ですから」
俺を見る事なく、ノートパソコンで作業をしていた氷河が言った。
広いその背中に寄り掛かるようにして俺は体重を預ける。
「戦い続ける罰なら、甘んじて受けるさ」
戻るには遅すぎて、ただ進むしか道はなく、その進む道は時々見えなくなる。
「ただ……」
氷河がノートパソコンを閉じる音がした。
「同じように奪われるのが嫌なだけだ」
「……奪われるのが嫌なら、強くなるしかないですよ、心も身体も」
ふと背にあった支えが無くなり、体重をかけていた俺はそのまま仰向けに倒れる形となった。
何故か氷河の膝の上に……。
「氷河……?」
「今はどこの国も動く気配はないですから、ゆっくり休んでください」
眠れないから私の部屋に来たのでしょう?と氷河は微笑む。
やっぱり見透かされてたか。
俺の髪を梳くように頭を撫でるひんやりとした氷河の手がなによりも心地良い。
「なぁ…氷河」
「なんですか?」
「氷河は………いなくならないよな?」
俺が奪った命にも家族や友人、恋人もいたかもしれない。大切な人を奪われる悲しみが、いつかきっと、俺にも訪れるだろう。
それを甘んじて受けられる自信は俺にはない。
ふと視界が黒くなる。目を閉じる事を促すように氷河が俺の手をあてているのだろう。
「私はここにいます」
だから安心して眠りなさい、と氷河が優しく言った。
優しい温もりのなかで俺の意識はいつの間にかまどろみ始めている。
耳に張り付いて離れない悲鳴は、いつの間にか消えていた。
お前という精神安定剤
(でもお前は俺が一番欲しい言葉は絶対にくれない)
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