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東京都内の高台にある寂れた教会。
普段は人気のないその教会に砂久は足を踏み入れた。
ギィィィイ……と音をたてて扉を開く。
人がいないにしては教会の中は綺麗なほうだった。
カラフルなステンドグラスから月明かりが差し込む様子は、七色のキャンディライトのようでとても幻想的だ。
そして、酷く不気味でもあった。
その奥の教壇に飾られている十字架の前で佇む少年がいる。
砂久は静かに近寄っていき、止まった。
少年は何時も耳に付けているヘッドホンを首にかけ、ただ静かに佇んでいた。
……祈りを捧げているのだろう。
「……ロザリオは……神は人を救わない」
そんな少年……颯斗を見て、砂久は思わず呟いていた。
颯斗は微かに肩を動かした。
砂久が来たことに気付いていなかったようだ。
「……ただの気休めだよ」
颯斗は振り向かずに、砂久に言う
わかっていた。
いくら祈りを捧げても、
いくら神に、十字架にこい願っても、
「失った命は二度と戻ってこない」
「颯斗…」
「でもね、こうでもしないと押し潰されそうなんだ」
命を奪った罪は重い。
それこそ心まで押し潰されそうな程に。
かつての英雄(ヒーロー)も時代を間違えればただの人殺し。
この言葉を颯斗は身を持って痛感していた。
自国では英雄、他国では仲間を殺した大罪人。
成人もしていない子供にはあまりにも厳しく重い英雄と言う称号。
「君は何でも”運命”と言う言葉で片付ける……僕にはできない」
砂久は年下なのに凄いや。と乾いた笑い声をあげる颯斗に砂久は眉を潜めた。
「片付けている訳じゃない」
静かに響く砂久の声は、何かを堪えているように颯斗は感じた。
――コツコツ
砂久が再び颯斗に歩み寄る。
彼の周りを取り巻く砂塵がステンドグラスから差し込む月光を受け、星屑のようにきらきらと輝いていた。
「君が此処で僕を始末する事もかい?」
「…………それもまた”運命”だ」
此処でやっと颯斗が砂久に向き直る。
初めて出会った頃の、何を考えているかわからない笑みは颯斗の顔にはない。
疲れ切った力無い微笑みを浮かべているだけ。
「……抵抗しないのか?」
砂久の言葉に颯斗は目を細めた。
「『運命に抗ったって無駄だ』………砂久の口癖じゃないか」
颯斗が砂久の手を掴む。
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