12人が本棚に入れています
本棚に追加
「颯斗っ」
「僕の心臓はここだ」
砂久の手が颯斗の心臓の位置まで誘導される。
顔をあげれば、自分の目線と同じ位置に颯斗の薄紫の瞳がある。
年は離れているはずなのに互いの身長は大差ないと、いまさらながら実感した。
「あ、どうせなら一気に頼むよ。痛いのは嫌いだからさ」
敵国の幹部をこうもやすやすと始末出来る。それは自国にとって、砂久にとってとてもいいな事だ。
颯斗を始末するという任務遂行の為にはこの右手を動かせば済む。
しかし、頭ではわかっているのに意に反して砂久の右手は全く動かなかった。
「どうし「貴様は死にたいのか!?」
右手を引くも、颯斗は砂久の手を離さなかった。
人一人の命を握っている、握られているこの感覚は颯斗にとっても砂久にとっても慣れる事の出来るものではない。
「……僕は君に襲撃されて死ぬ。これでいいじゃないか?」
僕の意志は関係ないと呟き、颯斗は力無く砂久に寄り掛かる。
(……もう潰されてしまったんだな)
子供のように肩に顔を埋める颯斗に思わずあいている左手で触れようとして、躊躇った。
「人を救えるのは神じゃない。人を救えるのは人だけ」
「…………」
「だから僕を救ってよ……砂久」
耳朶をくすぐる吐息と切なげな声。
砂久は静かに躊躇っていた左手の力を抜いた。
十字架(ロザリオ)が救ってくれますか?
人を救うのは人なのです
(俺にはお前の命を背負う覚悟は出来ていなかった)
(君は本当に残酷だよ)
最初のコメントを投稿しよう!