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アパートに到着すると、小百合の声が響いていた。
「お願い、一緒に死んで!!」
雪と創が近づくと、小百合の手にはナイフがあった。
「小百合、バカな真似はやめて!」
雪の声で一瞬後ろを振り向いたが、すぐに元彼の翔の方を向きなおした。
「みっきー、邪魔しないで・・・こいつは・・・私と付き合ってる時から、今の女と関係を持っていたんだから・・・許せない!」
「それは誤解だよ、小百合・・・」
翔は必死に、小百合に訴えた。
必死でなだめているが、小百合の目は完全に、正気を失っていた。
小百合は、ナイフをやたらめったらに振り回した。
「小百合がそんな事したら、お父さんはどうするの?!お父さんが悲しむでしょう!!どうしてそれがわからないのよ!!」
雪の言葉に、一瞬振り回していた手を止めて小百合は言った。
「お父さんは・・・もう・・・長くないの・・・」
「え?・・・」
手術は無事成功したと思っていたが、事実は違っていたのだ。
「メス入れた時は・・・もう、もう手遅れだったのよ!!!ああ・・・あああ!!!」
小百合はそのまま、泣き崩れてしまった。
愛する人を失い、愛するものに裏切られた小百合には、もう何もないような気がしていた。
泣き崩れた小百合を、雪は抱きしめてあげる事しか出来なかった。
「小百合、ごめんね・・・何もしてあげられなくて・・・私・・・」
雪は、後から後から涙が出て来た。
「いつも、小百合に助けてもらってたのに、私、肝心なところで、小百合を助けてあげられなくて・・・本当にごめんね・・・」
雪は己の無力さを知った。
人はいつか愛する人と、どんな形であれ別れなければいけない日がやって来る。
失うかも知れないからと言って、心の準備が出来るわけではない。
「小百合、ごめん・・・」
翔が小百合の手を取った。
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