プロローグ

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 「イヤ! お母さん離して! あーちゃんが、あーちゃんが!」  私は必死だった。しかし次の瞬間、私の視界からは黒服が消えていた。 何が起きたのか分からなかったが次第にピリピリと左の頬が痛みだした。そして私は母さんに叩かれたというのを理解した。  「……アヤメを早く持っていって下さい。私は…私が咎人を産んだということを早く忘れたいんです。だから、早くここからその咎人を持っていって下さい」  私はその言葉に呆然とした。この頃の私は咎人という存在を知らなかったが、母さんはアヤメを忘れたいと言った。これは紛れもない事実で、紛れもない真実だった。母親が自ら産んだ子供を忘れたいと言うのはよほどのことだと思う。  「――」  このとき黒服の1人が母さんに何かを言っていたがよく聞こえず、ただただ妹の泣き声が私の鼓膜に響き続けた。 それは、黒服たちが去った後でも私の頭の中で何度も映像が再生される。私は妹を守ってあげることが出来ない自分を責めた。小学校や中学校を卒業しても責め続けた。  妹がいなくなってから十年……私は両親の反対を振り切り妹を探す旅に出た。
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