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――紅き満月の夜
――魔女を捧げよ
――もし約束を守らぬなら
――貴様等魔物を全て滅ぼし
――人間だけの世にする
上から降り注ぐ様な声を聞き、魔物達はただ平伏すのみだった。その声の主は、魔物と人間を生み出した創造神。天地が生まれた時から、この世を見守ってきた。しかしそんな神は突然、彼等魔物に対して魔女を捧げろと言ってきた。
そんな事を言われた彼等は、皆が躊躇していた。魔物にとって魔女は、唯一無二の存在なので、たとえ神であっても渡したくは無かった。皆が悩んでいる時、一人の女が神に問いかけた。
「神よ、捧げる魔女は一人で良いのですか?」
――“魔女長”か
「神よ、貴方の元へ行く魔女は……この私だけにして下さいませんか?」
――何故……何故貴様が行く
我の使命を果たせし者は
貴様しか居らぬのだぞ
そう言ってきた神の声は、どこか泣きそうな感じだった。それを聞いた魔女長は、神に向かって微笑んだ。
「神よ――貴方は優しいのですね。しかし私は、他の魔女が犠牲になるくらいなら…………自らの命を捧げます!!!!」
魔女長として発した彼女の言葉は、皆が感動して聞いていた。さっきまで全員、自分達がどうやったら助かるかしか考えてなかった。しかし彼女は、仲間を助ける為に自らの命を捧げようとしている。そんな魔女長の姿を見て、一人の幼い魔女が彼女に飛び付いてきた。
「お母様っ!!!!」
「おやおや、千代ったら……。離れなさい、神の御前ですよ」
「嫌ですっ!!だって私っ……お母様に死んでほしくないっ!!」
「千代、貴方……」
神は考えた。この泣き叫ぶ少女は、魔女長である母が贄にされるのを嫌がっている。一方少女の母は、自分を贄にして娘と皆を助けようとしていた。
どちらの意思を尊重すべきか、神は悩んでいた。すると魔女長が顔をあげて言った。
「神よ!!私を贄にするなら、紅き満月でなく今すぐに!!!!」
――何故死に急ぐ
「……私は魔女長。皆を守るのが、私の使命!!!!」
「そんな使命っ……」
「私は皆の笑顔が見たい。だから魔女長を引き受けたのです。……神よ、我が身を贄として新たなる同胞達を……!!!!」
そう言いながら魔女長は、神に向かって腕を広げていた。そんな彼女の表情は笑っていた。
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