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――本当に良いのか?
――贄になるというのは
――死ぬという事だぞ
「構いません。私一人の命だけで、皆が助かるというなら……」
神は解らなかった。
どうして自分自身の命を放り出してまで、他人を助けようとするのか。いや、他人といっても仲間や家族、そこまでならまだ解る。しかし彼女達にとって、下級の魔物達など普段関わらない見知らぬ者達の筈。そんな者達まで助けるなんて、この魔女長の心は何て優しいんだろう。――そう、神は思った。
「神よ、私の最後の願いを……聞いてくださいますか?」
――何だ、申してみろ
「最後、最後なのですから……貴方の姿を、私に見せてくださいっ……………“愛しい人”」
――……良いだろう
神がそう言った瞬間、空がまばゆい程に輝きを放った。その輝きは、神が背負いし光。その光は、魔女長と神の間に光の階段を造り上げた。階段の上の方から、ゆっくりゆっくりと神が降りてきた。
一段一段踏みしめる様に、神は階段を降りてきた。その神の姿を初めて目にした者達は、神々しくもあり堂々とした立ち振る舞いにみとれていた。しかしその姿も、また美しかった。髪は鮮やかな碧色で、長さは肩より少しある位。目は深紅の色で、キリッと鋭く吊り上がっていた。しかし顔だけでは、まだ終わらない。
神であるが故に、色々過酷な仕事もある。その中で鍛えに鍛え抜かれたこの身体。それらの素晴らしい魅力を持った神を見て、皆がみとれずにはいられなかった。
そして漸く神は、階段を降りて魔女長の前まできた。魔女長は、嬉しそうに神に抱きついた。
「あぁっ……やっと貴方に触れたっ……!!!!」
「……久しいな、こうして触れ合うのは。我も嬉しいぞ、“翡翠”」
抱き合った二人は、互いの顔をみて嬉しそうに笑った。久しぶりに抱き合い、そして……言葉を交わす。些細な事でも、二人は嬉しかった。しかしそんな二人を見て、翡翠の娘千代がムッとしていた。
「お母様っ!!!!」
「どうしたの、千代?」
「千代、どうした?」
いきなり怒鳴った千代を、母である翡翠だけではなく、神までもが心配してきた。そのせいか千代は、更にムッとしてしまった。
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