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「千代、君が怒る必要は無い」
「うるさいうるさいっ……!!!!」
「……止めなさい、千代。この人は、貴方の―――
“お父さん”なのよっ!!!!」
翡翠がそう告げた瞬間、皆が静まりかえった。そして直ぐに騒ぎ始めた。ありえない、交わってはならない筈の天界と下界の住人同士が、夫婦となって子供までつくっていた。その事実に、その場にいる者達は、皆が首を傾げながら騒いでいた。当人達と傍に立っていた赤髪の女性以外は。その赤髪の女性は、目元に赤い楓の葉の様な刺青が刻まれていた。彼女は、ざわめく魔物達を一喝した。
「静まれ!!静まらねば、貴様ら全員を斬るぞ!!」
「やめなさい、楓」
「楓おばちゃん、やめてっ……。母さんが嫌がってるからっ……」
「――――下がれ、楓」
「っ……神と長の仰せのままに」
主である長と神に加え、彼等の子供である千代にまで言われては、その手を引っ込めるしかなかった。千代に楓と呼ばれた女性は、彼女の言葉に少し表情を歪めた。しかし、彼女の絶対的存在である二人――神と長に言われた為、斬りかかろうとしたのを止めて、大人しく彼等の前にひざまづいた。そして彼女は、顔を上げてから視線を長である翡翠に向けた。
「長、教えて下さい。何故……何故っ、貴方が死なねばならないのですか!!」
「皆を守る為には、仕方のない事なの。解ってちょうだい……楓」
「だからといって、貴方が生贄にならなくとも……この私めが!!」
「駄目よ、それは」
「っ……何故ですか!!」
「貴方には……守ってもらいたいのよ。私達の娘である千代を」
千代の肩に手を置いて、翡翠は笑みを浮かべた。そして、そのまま千代を後ろから優しく抱きしめた。それに続くように、神は二人を包む様に抱きしめた。千代は、思わず身を引きそうになったが、二人の温もりを感じているのが心地よくて、そのまま動かずにいた。
「ねえ、お母様……一つ聞いてもいい?」
「いいわよ、何が聞きたいの?」
「お父、さんの……こと」
「!!……俺の、事?」
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