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「そういや亮、お前は平気なのか?」
「兄さん、今何時だと思ってるの?まだ朝の七時だよ?――そんな早く行ったって、暇なだけだよ。ってか、そもそも開いてないと思うけど」
「あ、そっか」
双子の弟――亮は、双子の兄――淳を見て溜め息を吐いた。そんな亮の心を知らず、淳は慌てながらリュックに色々詰めていた。
エプロンにノート、教科書や筆箱等―――様々な物を、大きめの黒いリュックに詰めていく淳。彼の詰めていく荷物を見て、亮は何か納得したかの様に頷いた。
「あ、今日からだったっけ?」
「そ!!今日から暫く教育実習だから、カフェの朝の準備だけでも手伝うって、千代さんに言ったんだよ」
「――でも、それと千代さんの娘さんに何の関係が……」
亮が不思議そうに首を傾げると、淳は荷物を詰めていた手を止めて、弟の方を向いた。
「――俺が教育実習で行く学校、千代さんの娘さんが通ってる学校なんだとさ」
「ふーん……。兄さん、それはそうと―――時間は?」
「……時間?」
弟に言われて時計を見た兄は、段々と顔が真っ青になっていき、急いでる割には丁寧にリュックのファスナーを締めていた。そしてそれが終わると、急いでTシャツの上にブラウスを羽織り、そしてリュックを背負ってから部屋を出ようとした。しかし、それは弟の亮に阻まれた。
「兄さん」
「何だよっ、今急いでんだぞ!!!!」
「いや、それは解ってるけど……走っていくつもり?」
「それ以外にあんのかよ」
「――バイク、貸してあげる」
亮がそう言って差し出したのは、バイクのキーだった。それを見た淳は、開いた口が塞がらないとでも言うかの如く、とても驚いていた。
「え、アレってお前……“僕のだから使うな”って……」
「今回は特別。だって今日は――」
「あっ……亮、取り敢えずバイクはサンキュー!!んじゃ、行ってきまーす!!!!」
亮が何かを言いかけると、淳は慌てて行ってしまった。しかし、だからといって彼の口が止まる事は無かった。
「今日は満月だから、気を付けてって――言おうと思ったんだけどな……。それにあの様子だと、“自覚無し”に“未覚醒”ってとこか。――覚醒してたら、この町中に漂う不気味な空気………例え兄さんでも、解ると思うんだけどなぁ――――」
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