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魔物は辛そうな事で
「ウゥゥゥ……」
と、弱々しく、血だまりの中でうめいていた。
最早、魔物では無く、哀れな一頭の“狼”だ。
この光景は、見るに堪えない物だった。
「……ッ……!」
ティムは、目を閉じて、狼を見ない様にしている。
この様な光景を見せ付けられて、大半の人間は目をそらすだろう。
しかしセリンは、その光景に気分を害す事無く、それを不機嫌そうに眺めていた。
「ちっ……」
セリンの視界の中で、苦しそうに震え、うめいていた狼は、やがて口から少量の血を吐くと、動かなくなった。
今、その命は永遠に閉ざされたのだ。
セリンは踵を返し、ティムが立っている所までゆっくりと歩いて行くと、その肩に片手を乗せて言った。
「だからあの時トドメを刺せば良かったんだよ。そうすりゃあんなに苦しむ事も無かっただろうに」
ティムは、下を向いたまま応えた。
「……、そんな事言うなら、何であんな事したのさ?」
するとセリンは、歯を噛み締め、拳を強く握り締めて言った。
「自分の愚かさに腹が立つんだよ……。何も考えずに、金を湯水の様に使って……、それが、何かを斬る事ど、忘れる事が出来る様な気がするんだよ……」
語るセリンの表情は、何処か寂しげな物であった。
何も考えず、遊びに浸っていた自分の姿が、脳裏に浮かんでは消えて行く。
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