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「……、さて、戻るぞ」
セリンは、寂しげな表情を変えないまま静かに言い、来た道を戻って行く。
「あ、うん……」
ティムもまた、その表情を変えずに、疲れたかの様に、ゆっくりと後を付いて行った。
両端に下水のある、狭く、暗い道を暫く歩き続け、行き着いたのは、少し広い空間であった。
周りには殆ど何も無く、唯一在ると言えば、両端を流れる下水と、分解して広げた段ボール、所々破れた薄い毛布が二つだけだ。
その奥は行き止まりとなっており、長々と続いていた下水の先に、小さな土管が付いている。
その先が何処に続いているかは判らない。
「……、僕は先に寝るね。お休み」
ティムは、広げた段ボールの上に横たわって、毛布を被り、目を閉じた。
セリンは、その隣に在った、広げた段ボールの上に座ると、暗い夜空を見上げた。
所々に散りばめられた幾多もの星が、視界に広がっていた。
そのどれもが美しく輝いており、その中央には、満月が輝いていた。
「……、馬鹿だよな、俺って……」
セリンは、小さな星に語り掛ける様にして、独り言を言った。
頭の中に在るのは、先程の戦闘の事だけであった。
セリンは、自分の気持ちを晴らすべく、一つの命を残酷な方法で奪ったのだ。
相手が魔物だったとは言え、自分の取った行動は正しかったのだろうか。
「……、正しい訳無いよな。俺は何を遣っていたんだ……」
冷たい風が頬を撫でる。
セリンは、毛布を持って立ち上がると、ティムを起こさない様に、そっと歩いて行った。
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