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「こんな初歩的な罠にかかるとはな。」
暗い部屋の中、1人の青年が佇んでいた。
いや、佇まさせられていた。
その足下には不気味に光る紋様が浮かんでいる。
「これはどういうつもりだ?ヴェニス。」
動きを封じられた青年は、目だけをその部屋の扉へと向けた。
そこにいたのは1人の男。
ヴェニスと呼ばれたその男は自分の白髪の頭をなで、青年に向かって歩きだした。
「見ての通りですよ。あなたは力を持ち過ぎた、ただそれだけのこと。」
男は青年に顔を近づけ、続けた。
「あなたが『あれ』の使用許可さえ出していればこうならずにすんだものを・・・
非常に残念ですな。」
「あれは世界のバランスを崩す」
「だが無限の利益を生む」
ニヤニヤと気味の悪い笑みを浮かべるヴェニスに青年は顔をしかめた。
それすら気にせず、ヴェニスは腕時計に目をやる。
「おや、もう時間だ。
さて、それでは・・・様、安らかな眠りを」
その言葉に合わせて、紋様の輝きを増し始めた。
それを見た青年の顔に浮かんだ表情は恐怖ではなく、
「くくくっ」
笑みだった。
「はははははっ!!」
「何がおかしいのですか?気でも狂いましたか?」
青年にはにこやかなヴェニスの顔の裏には明らかな殺意が見てとれた。
だが青年は笑うのを止めない。
「いや、お前は俺と10年も一緒にいてまだ俺の性格を分かっていないのかと思ってな」
「なんのことやら」
ヴェニスは手に持つ赤いルビーがはめ込まれた杖を構えた。
「もう、よろしいですか?」
「俺はな、」
だが、それよりも早く、青年の体は銀色に輝き始め強い風が青年を中心に巻き起こった。
「うっ!?」
「往生際が悪いんだよ」
青年の体から噴き出した光は、屋根をごっそり吹き飛ばしたかと思うと、勢いをそのままにまるで巨大な柱のように天高く伸びた。
そして、天まで伸びきった夜空を切り裂く一筋の光はきれいに6つに分かれ、それぞれ別の方向へと飛んでいった。
「生意気なガキだ」
男は今はいない、青年が 立っていた所を一瞥すると、その光の行く先を見ることもなくきびすを返し、そのまま部屋を立ち去った。
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