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「さぁさぁ。引越しの邪魔になると引越し屋さんに怒られるわよ。」
「早く二階へ上がってなさい。」
そう言うと母は、無理に笑顔を作りタケユキの背中をポンと押す。
タケユキは何故か母から離れたくなかったので、顔を横に振った。
母は笑顔で言う。
「ほらほら。いい子だから。」
そう頭を撫でて二階に指を向けてうながした。
タケユキは渋々二階へ上がり二階の窓から下を眺めた。
大きいトラックが我が家の前に横付けしていて、何やら大きな荷物を大人が運び出している。
ふと家の前を見ると、近所の人達が集まっていた。
どうやら引越しの事をあれこれと噂しているらしい。
タケユキにはそれが何を意味するのか解らず、ただ何となくそれを見ていた。
タケユキがずっと後で知った事だが、父の会社が倒産し、借金の肩代わりに家を持って行かれたんだそうだ。
その日は引越しで一日潰れた。
そして新しい家へ落ち着いたのは、
今日に似た日差しの暑い夕方だった。
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