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勇二は、タクシーに乗り込み好美のいる施設へ急いだ。施設は真新しい綺麗な造りだ。勇二は受け付けをして好美の病室に急いだ。ドアの前に立つと、開けるのが怖くなった。また一年前みたいに拒絶されるのかと。しかし一年間で募るに募った想いが勝り、ドアを開けた。そこには、ベットに寝ている好美と、母親がいた。
「あっ・・・お母さん。す、すいません。帰ります。」
前科の付いた自分だから合わせる顔がないと思い、立ち去ろうとする勇二に、
「待って、勇二さん!私は何とも思っていませんよ?田辺先生から話は聞いてますから。あなたは、こんなになってしまった好美を愛してくれてるから嬉しいぐらいよ。」
勇二は涙を流しながら言った。
「お母さん・・・何ででしょうか。神様は何で、こんな苦痛を与えるのか。今では憎んでもいます。」
母親は勇二の手を握り言った。
「私も、好美から誰って言われた時は思ったわ。でも、これは好美に与えられた運命なの。見てみて。まるで子供に戻ったみたいに純粋な顔つきになったわ。勇二さん。私はガンに侵されているの。末期よ。でも好美に比べたら全然平気。だって亡くした主人との思い出も死ぬまで心の中に生き続けることができるもの。でも・・・この子は、あなたとの記憶をなくしたまま生きていかなくてはいけない。私がいなくなったら、孤独になる。勇二さん。毎日、会いに来てやってちょうだい。私も奇跡を信じてる。私は病院へ行くから。じゃあ。」
母親は病室を後にした。勇二は強くなったつもりでいたが、自分の弱さを改めて知らされた。勇二は毎日会いにくる決意をした。しばらくして好美が目を覚ました。
「あなたは誰ですか?ごめんなさい。私記憶がないの・・・」
勇二は微笑んで、
「あなたの友人です。勝山と言います。あなたの、お母さんに看病を頼まれました。」
「そうですか。毎日来てくださっても忘れてしまうんです。許してください。」勇二は込み上げる物を抑えて、
「ええ。かまいません。毎日来ますから。」勇二は、この日から毎日、好美に会いに行った。
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