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2068年 勇二は84歳になっていた。この60年間、調子の悪い時も一日も欠かすことなく施設に通っていたが、足を患い、一緒の施設に入った。勇二は幸せに思っていた。二人の距離が近いからだ。奇跡は起こることはなかった。しかし60年の毎日、会った甲斐があったのか調子の悪いとき以外は友達として認識していた。この日も、自由の利かない足を必死に手すりを握りながら確かめるように歩き、好美のいる病室に向かった。
勇二が病室に入ると、好美は窓の外を眺めていた。勇二は、心の中で今日も調子がいいと嬉しいと思いながら話し掛けた。
「好美さん、調子はどうかね?」
勇二の声は若い頃低かったがさらに低くなり、トーンも弱くなっていた。
「あっ。勇二さん。調子はいいわよ。朝ご飯も喉を通ったし。」
好美は、84歳になっていて、髪も全て白くなってはいるがスタイルは変わらず顔立ちも昔の面影を残している。外は桜の季節を迎え、ピンク色の花を咲かせていた。勇二は61年前の記憶を思い返していた。あの時の初めてで最後の告白。初めてのキス。色々と懐かしい気持ちに毎年この季節にさせられていた。
「ねぇ、勇二さん。看護婦さんから聞いたかしら?来週に花見をやるらしいわ。今年から許可が出たらしいの。みんなで、バスに乗っていくんですって。」
「そうかぁ。それは楽しみですね、好美さん。」
勇二も久々のドライブに嬉しくなった。
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