二章 急接近

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二人は、三十分程会話をして、喫茶店を出た。二人は車に乗り込むと勇二はエンジンを掛けた。すると車内に曲が流れ始めて好美が嬉しそうに言う。 「あっ。この曲、私が好きな曲だ。わざわざ用意してくれたんですか?」 勇二は、事前に好美に連絡を取り、好きなアーティストを聞いていた。自分が口下手な為、好美に退屈させない為の配慮だった。二人を乗せた車は一時間ほど走り峠に入っていった。少し走ると二人の目の前に飛び込んできたのは桜のトンネルだった。この時期は桜の満開を迎えていて綺麗なピンク色のトンネルだ。周りを見渡しても無数の桜が姿を見せていてまさに幻想の世界だった。勇二が駐車場に車を止めて二人は車を降りた。二人は並んで桜を見ながら歩き始めた。 「綺麗~。こんな場所があったなんて知らなかった。勝山さん、ありがとう。私、嬉しいわ~。」 喜ぶ好美の姿を見て勇二は満足感でいっぱいだった。二人は足を止めてシートを広げて座った。好美は持ってきた手作り弁当と水筒を出した。 「お口に合うか分かりませんけど召し上がってください。」 好美がフタを開けると綺麗に彩られた中身が姿を現した。小判型のおにぎりに胡麻が降り掛かっていて、タコの形をしたウインナーに、定番の卵焼き、煮物、漬物などが入っていて女性らしい作品になっている。勇二は桜よりも弁当に感動していた。 「美味しそうですね~。どれから手をつけようか迷います・・・」 女性の手作り弁当は母以外なかった為に嬉しさのあまり、目を少し潤ませた。
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