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王都・スニキア
見事な城が北東部にある高台に聳え立つこの素晴らしく綺麗な都には世界各地から人が集まる。
観光でくる者もいれば店を開く者もいる。
実に賑やかな都である。
「……ハァ~……
また赤字だよ、畜生……」
そんな明るく賑やかな町に似合わず南東部の広場に面した民宿の2階に頬杖を突き溜め息を漏らす青年が一人。
その青年は黒い前髪が左から右に流れ少しだけ右目に被さっている。
「お~い、ローグや
おらんのか~?」
青年の眼下の玄関を千鳥足でフラッフラの老人が叩いた。
青年は舌打ちをして収支記録張と書かれたノートをテーブルに投げおき部屋を出て階段を下りていく。
「……なんだよ、シガルの爺……
俺はちょっと不機嫌なんだけど?」
そして、玄関をあけた瞬間に老人にそう言い放った。
このローグという青年は明らかに敵意を持っている。
「そうツンケンするなって~
酒を飲まんか~♪」
ローグからシガルと呼ばれた老人はどこからか一升瓶を取り出しローグに薦めた。
「……また飲んでんのかよ……」
ローグは呆れたように顔を上気させたシガルに確認するように言った。
もう70に手が届こうというのに昼間から酒を飲んでいるというのはいいご身分だ。
「酒はいいぞ~
酒は嫌なことを忘れれる~」
シガルは一升瓶に頬を擦り合わせ笑顔を作る。
ローグは注意しようとしたが手を頭に当て本日2回目の溜め息を吐いた。
「……前も言ったけどな、俺は下戸だ
……茶ぐらいは飲ませてやるからあがれよ」
「悪いの~
婆さんが煩くて敵わんかったからの~」
ローグはいつまでも酔っ払いに構っている訳にもいかないと思ったのか、玄関の戸に背を当てシガルを招き入れた。
シガルは躊躇うことなく中に入りフロントにあるテーブルに一升瓶を置く。
ローグは玄関を閉めそのまま台所に向かい紅茶を入れる準備をした。
「のう、ローグ~
毎回、毎回済まんの~」
準備中ソファに寝転がるシガルからもう何回聞いたか分からない台詞が飛んできた。
しかし、ローグはその台詞にこれまた何回言ったか分からない台詞で返す。
「済まないと思ってんなら禁酒しろよ、シガルの爺
……って! ソファの上で寝んなって何度言えば分かるんだよ!」
寝息が聞こえたと思ったら直ぐにローグは状況を理解しシガルを叱った。
これがローグの日常でありこの日を境にローグの運命が大きく動き始めるのだった。
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