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「……んで、シガルの爺
ここに来た理由はなんだよ……」
ローグは頭を抱えてどんちゃん騒ぎを始めたシガルに訊ねた。
どんどん散らかっていく部屋を諦めの境地に入りながら見るローグ。
「うへ~い、今日は中央広場に~行商の市が~あるぞ~い! ヒック!」
まともな答えを聞けそうにないと思って訊ねたもののシガルは案外普通の返答をした。
「……月一の行商の市か
そういや今日はその日だっけか?」
ローグは頭を掻いてシガルに言った。
相変わらず一升瓶を抱えているシガルだが時計を見て顔色を変える。
「そうじゃ!
こうしてはおれん!
旨い酒を買い占めんと!
て、ことで伝えたからの~」
そう言って意気揚々としてシガルはさっきまでの酔いがまるで嘘のように駆け出した。
……散らかしたままでだ。
「……糞爺め……
あとで損害賠償を請求してやる……」
そうローグは心に決め財布を持ち黒いジャケットを羽織って宿屋の玄関にcloseと札を掛け中央広場に出掛けた。
「ミリアさん、あれが王都ですわ」
「……王都……
できればこんな形では来たくなかったのですが……」
大きな壺を何個も乗っけた行商の馬車の荷台。
シートが被さったその荷台の中で茶色のローブを羽織ったミリアと呼ばれた人に行商の女性が前方の町の説明をした。
ミリアは残念そうに呟いたが行商の女性はいかにも冷淡な口調で言った。
「まあ、逃亡なら仕方ないですわ
私の仕事はここまで
明日からは自分でなんとかしてください」
明らかに煙たがれていることが分かる物言いではあるがミリアはニッコリと笑った。
「……ここまで乗せてもらったことをまことに感謝します
……貴方に神からの恵みがあらんことを……」
そして、胸の前で十字を切り手を重ね祈りを捧げる。
行商の女性はここまで感謝されるとは思っていなかったようで頬を人差し指で軽く掻いた。
ミリアは祈りを捧げた後、門の前で荷台から下りて腰に盾と細剣を引っ提げて行商の女性に礼をして深々とローブを羽織ったまま門の中へ入って言った。
「……にしし♪ 見ぃつけた♪」
その様子を緑色の中性的な顔立ちをした白衣の人物に見られていたことを知らずに……
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