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………フゥー。
しばらくの間、老人は微動だにせず窓の外を睨んでいた。しかし、大きくため息をつくと、いくぶんか表情を和らげて言った。
「こりゃ、すまなかったな」
森の木立が、応えるようにざわざわと音をたてる。
「何も心配は無い、女神の息吹はとこしえに我等と共にある。安心して、新しき一日の始まりを祝おうではないか」
老人は鳥達や木々、そして自分自身に言い聞かせる様に言い放つと、窓際から離れ再び椅子に座った。
チチチチチッ。
鳥のさえずりが聞こえる…
爽やかな朝の音が戻ってきた。
しかし、老人の胸中には先程感じた違和感が暗い影を落とし、老人の表情を曇らせていた。
「何か、良からぬ事が起こりそうだのぅ」
老人はそれだけ呟くと、瞼を閉じた。
チチチチチッ。
鳥達のさえずりを聴きながら。
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