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その夜、夢の中でマーズは何かの声に呼ばれた気がした。それは暗闇の奥から聞こえてくるようだった。その方向へ歩いていくと、突然光が目に入りその明るさに眼が眩むが、すぐに慣れて見えるようになる。
辺りが見えるようになると目の前には巨大な神殿のようなものがあった。それは緑が生い茂る森の中に静かに立っていた。
「……」
その神殿らしき建物を見ていると奇妙な既視感が生まれた。だが、どこで見たことがあるのかが全く思い出せずにいると、また声が聞こえてきた。
「ぁ……を…まっ……て…」
「……」
声が何処から聞こえるのか場所を突き止めようとするも、声が自分の周り全てから聞こえている為、場所が特定できずにいると、不意に声が聞こえなくなった。
「声が…」
今まで聞こえていた声が聞こえなくなったことで、辺りは一気に静まり返った。だが、今度は声とは違う何か別の音が聞こえてくる。音がどんどん近くなりその音の正体がわかった。
それは大きな竜だった。飛竜だろうか、翼が生えていた。マーズは巨大すぎるその異様な姿に目を奪われた。音の正体はこの竜の歩く音だったらしい。歩くたび音と震動が伝わってくる。
「この竜は…」
「彼は星を司る"竜王"の一人」
再び声が聞こえた。だが、今回の声はさっきの声とは違う声で、マーズのすぐ後ろから聞こえた。その声のする方に振り向くと、そこには見たことのない少女が立っていた。
「私は…そうですねなんと言ったら良いのか…」
後ろを振り向いた途端、少女は唸りながら考えているようなそぶりを見せた。そんな中あの竜は地面を揺らしながら近づいてくる。そして、少女が考えるそぶりを止めるとこっちを見た。
「私のことはフェルとでもお呼び下さい」
「フェルさんですか、僕はマーズといいます」
「ふふ、知っております」
そう言うと少女・フェルはちょうど2人の近くで止まった竜に向かって何かを言った。何を言ったのかマーズには聞き取れない言葉で言っていた。竜は少女の言葉を聞くと頷き、マーズを見た。
「お前がマーズ…なのだな」
人の言葉を喋るのかと軽く驚きながらも、「はい」と返した。肯定したマーズを見た竜は何かを喋ろうとするが、その先の言葉を紡ぐのを止め、代わりに「お前が止めるんだ」と言った。
「!!」
その直後視界が急にぐるぐると暗転し、そして朝を迎えたベッドの上で目を覚ました。
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