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早速といった感じで、シャルは1枚の写真を手渡す。そこには、1人の女性とまだ幼さの残る少年が写っていた。
「これは…貴方…ですよね?」
「っ…」
マーズは、その問いかけにはすぐに答えなかった。写真を見つめたまま微動だにせず、遠いどこか…今はない故郷を見つめているようだった。
「この写真は、預かってきたものなんです。」
未だ写真を見つめているマーズを尻目に、自分が何故マーズを知っていたのか語り始める。
「私がまだ小さい頃に、両親が事故で…その後に、教会の施設に預けられたんです。その時に貴方に会っているんです。」
「…」
まだどこかに意識がいっているようだったが、少しだけ写真から目を離し、彼女の言葉に耳を傾け始める。
「あ、会ったと言っても、遠くにいたのを私が見ただけでしたが……コホンッ」
「そのあとも何回か見かけた事はあったんですが…結局お話ししたことはありませんでしたね…」
段々と自信なさげになっていく彼女に、マーズは訝しげになりながらも気になっていたことを聞くことにした。
「確かに少しの間、聖王教会の施設にいたことはあるけど…何故貴女が写真を持ってるんですか?」
「それは……渡して欲しいとある人から頼まれたんです。」
「ある人…ですか。」
勿体ぶりながら言ったことで、何となくその"ある人"が分かったような気がしたマーズは、写真を大切にポケットへとしまう。
「……確かに写真は受け取りました。その"ある人"に、ありがとうと伝えておいて下さい。」
「あの…誰か聞かなくても…?」
「ええ、何となく想像がつきましたから。」
そう言いマーズが軽く苦笑する。それを見たシャルは彼も大変だったのね…と察した。
「さて、僕はそろそろ部屋に戻りますね。」
ベンチから立ち上がり、身体を伸ばしながらシャルにそう伝える。
「あ…はい」
少し残念そうにしながら頷くシャル。それを見たマーズは、また今度教会にいた頃の話をしましょうと伝えたあと別れ、ゆっくりと部屋への道を歩いていく。
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