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「…………おい、お前もいつまでそこにぼけーっと尻餅ついてるんだ」
「えっ? ぼ、僕の事?」
「いや、お前以外に誰も尻餅なんざついてねぇだろうが」
周りをキョロキョロと見回してようやく気づく。あっ、そういえばそうか。絡まれてたの僕だし。
「……お前、もしかして天然なのか?」
「えっ? 僕の名前はヒデオ、秋野宮ヒデオだよ。天然って名前じゃないよ?」
「…………なるほど、良く分かった」
額に手を当てて、やれやれと言わんばかりに頭を振るユウジ君。
一体今の会話で何が分かったんだろ? やっぱり都会の人って凄いんだなぁ。強いし、カッコ良いし…………憧れるなぁ。
「そんで、いつまでヒデオは地べたに座り込んでるんだよ」
「いやぁ、それが……腰が抜けて立てなくなっちゃったんだよね」
「お前……それで騎士を目指すって凄いな。ある意味尊敬するぞ、お前の事」
「いやぁ、そんなに褒めなくても」
「褒めてねぇよ」
呆れた声色と何か諦めたような顔をしてユウジ君が言う。
んー? 僕何か変な事言ったのかな。やっぱり田舎で育ったから周りの人と考え方とかが違うのかな。
そんな事を考えていると、僕の目の前にスッと1つの手が差しのべられた。
「ほら、腰抜けて立てねぇんだろ? だったら方法は2つだ。何かに掴まって立ち上がるか、さっきまで人をボコボコにしてたやつの手を掴んで立ち上がるか。さぁ、どうする?」
そう話すユウジ君の顔は……笑っているのにどこか寂しさのようなものを感じさせる。何故だろう、乱暴をしたから? 不良だって言われたから? 僕がユウジ君を恐がってると思ってるから?
…………なんか最後のだったらちょっとムカつくかも。
そう思った時には、僕はユウジ君の手――硬くて、ゴツゴツして、力強さの中に優しさを感じるように暖かい――を掴んでいた。
ユウジ君は僕が手を掴んだのが意外だったのか、顔を驚きに染める。
「僕はユウジ君の事や家族の事は知らない。けどさっきのでユウジ君が強くて、本当は優しいって事が分かったよ」
「…………へっ、買い被り過ぎだっての」
そう言いながら全く足に力を入れていないのに、軽々と僕をグイッと一気に引き上げてくれる。一瞬、照れ笑いしているユウジ君の顔が見えたのは黙っておこう。
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