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その町は燃えていた。
村と言っても違和感がない程の規模だったけど、皆は町としきりに呼んでいた。
そんな場所が僕の生まれ故郷であり、僕と父さんの家であり――――父さんの墓になった。
「……お父さん、お父さんってば」
その頃の僕はまだ、人が死ぬという事をよくわかっていなかったのだと思う。
だからこの時――――家が焼き崩れて父さんが上半身を残して下敷きにされていた時も、きっと助かるのだろうと幼心の中で信じていた。
父さんは騎士だった。皆を護り、皆から尊敬され、皆に信頼されている。僕の中ではとても偉大な騎士だった。だからそんな父さんが死ぬなんてあり得ない、あるはずがないと信じた。信じるしかなかった。
「お父さん、お父さんっ!! 目を覚ましてよ! 僕を……ひぐっ……1人に…………うあぁ……」
動かなくなった父さんを揺らす昔の僕は今思えばとても自己中心的だったのだろう。ただ1人だけの肉親である父親が居なくなる事よりも、自分を護ってくれる存在が居なくなる事に恐怖し涙を流した。
僕は最低の息子だ。
「うぅっ……ヒ……デオ…………」
「お父さん! 大丈夫!?」
「ははっ……俺を誰だと思ってるんだ? お前の…………父さんだぞ?」
でも父さんはそんな僕に笑いかけてくれた。頭から血を流していても、下半身が潰れて動かなくなっていても。
どれだけ苦しかったのだろう。
どれだけ辛かったのだろう。
どれだけ恐かったのだろう。
今となってはそれも分からない。とにかく父さんは僕を不安にさせないように無理して笑顔を作り、頭を撫でてくれた。
「いいかヒデオ……騎士……は護るモノがあるから……戦えるんだ。…………戦うためにいるんじゃない、護るために、いるんだ」
「…………お父さん?」
「だから……俺は……お前がいたから…………戦えたんだ……他でもない、お前がいたからだ。……ヒデオ…………強くなれ……そして今度はお前が……皆を……護――」
ザシュッと何かを斬った音がしたかと思うと、父さんの背中にいつの間にか剣が突き刺さっていた。何が起こったのか分からない僕に、父さんに刺さっていた長剣が抜けて血飛沫が飛び散る。
僕の顔に、髪に、体に、服に、父さんの……父さんだったモノの血が――――
「あああぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁ!!」
【NOWHERE MAGIC】
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