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「えっあのっそのっ、ゴメンナサイ!!」
内心こんなコテコテの不良が居る事に驚きながらも、恐怖に駆られて頭を大きく下げて謝る。
別にこんな力だけで頭が悪そうな人達がいるのは不思議でもなんでもない。むしろ当然なのかもしれない。
騎士とは人を守るためだけでなく、魔物や野盗なんてものを駆逐するためにもいる。だから頭が良くなくても力があればなれる場合もある。
まぁ、もちろんそんな人間が上の階級になれた例は聞いた事無いけど。
そんな事を思い出していると、不良その1その2が大声をあげて詰め寄ってきた。
「ごめんなさいだぁ? そんな言葉で兄貴の怒りが治まるとでも思ってんのか!!」
「そうだっ、うちの兄貴にぶつかっておいてただで済むと思うなよっ!?」
バカの1つ覚えのようなセリフを発しながらガンを飛ばしてくる不良2人。
あぁ、一体どれだけこの2人は人間として最低なんだろう。
強者の力に媚び、強者の権力を利用し、強者に守ってもらう。それで自分が強者であると勘違いする。そして強者の名前を、力を、権力を振りかざして弱者を虐げて紛い物の優越感に浸り、またそれを欲して同じ事を繰り返す。
くだらない。そしてこんなのが騎士になるのだと思うと吐き気さえ込み上げてくる。この人達はただの野蛮人だ。魔物を殺す事をまるでゲームのように楽しむ。同じ人間だと言うのに野盗を殺す事を苦とも思わない。何故こんなのが騎士になれるのだろう。
騎士とは人を『護る』ための存在。間違っても何かを『殺す』ために存在しているわけじゃない。
騎士とはそういう物だと僕は信じてる。
昔、僕がまだ幼かった頃に父さんがそう教えてくれたから。父さんはいつでも笑っていた。死ぬ間際になっても笑顔のまま僕の頭を撫でて――――刺し殺された。
野盗の襲撃で僕の住んでいた町は全て焼き払われた。町と言っても小規模だったから村と形容しても違和感が無かったかもしれない。
それは無差別の殺人だった。大人も子供も男性も女性も関係ない。ただひたすら殺して、物を奪っていった。そして父さんは騎士として町の人を護るために戦い、そして死んだ。
僕はその時から騎士を志した。
誰かを――父さんを殺した誰かを『殺す』ための力が欲しかったからじゃない。
僕と同じ思いを誰かにさせたくないから。だから誰かを『護る』力になりたかった。
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