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「ごめんなさい、本当にごめんなさい!」
でも僕は無力だ。
何かを護る力を僕はまだ身に付けてもいない。そもそも自分にその力があるかどうかすらもわからない。今の僕はただの非力な人間だから悔しいけれど今はこの人達に謝るしか方法はない。
「だーかーらー! 謝っても無駄だって言ってんだろうが!! そんな事もわからねぇのかテメェは!!」
「いっそのこと自分がどうしなきゃならないのか、この体に叩き込んでやるぜ!!」
「うぐっ!?」
胸ぐらを掴まれ、足が地面を離れて体が宙に浮く。酸素を求めて掴んだ手を剥がそうともがいても、固く握られたその手はまったく外れる気配を見せない。それを見て喜んだのか更に手を高く上げ、周りに見えるようにし始めた。
羞恥を抑え、誰かが助けてくれないかと期待して取り囲んでいる人垣を見る。けれど僕はそれを後悔する事になった。
周りの人達が目に浮かべているのは好奇や畏怖、そして呆れの念。誰も助けようとは思わない。中には助けたくても巻き込まれたくなくて来ない人も居るかもしれない。けれど大半の人は初日から面倒を起こした僕に呆れている。
僕は絶望した。自分が助からないからじゃない。人を護らなければならない騎士になろうとしてきた人達が、厄介事と関わらないようにしていることにだ。
こんなに大勢がいるというのに誰1人助けようとしない――つまりそれは騎士になったとしても人を見殺しにするような人達だと言うことだ。
力が敵わなければ抗うことも諦めただ逃げる。大勢でかかれば隙が出来て助けられるかもしれないのに、ただ傍観するだけ。
これが僕の憧れた騎士の本当の姿?
だとしたら僕はもう騎士になれない。叔父さんと叔母さんには悪いけど無理だ。もうこれ以上こんな場所にいたくもない。
「おい、怖くて目を瞑ってるぞコイツ!」
「情けねぇ、こんな弱い奴は地面に這いつくばらせようぜ! ギャハハハハハ!!」
不意に一瞬、体が浮くような錯覚を覚えた。あぁそうか。僕は今から地面に叩きつけられるのか。この人の意見に賛成するわけじゃないけど、本当に情けない。
自分も、周りも、全て情けない。
そして僕は地面に叩きつけ――――
「おいっ、ちょっと待て」
――られる事はなかった。
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