109人が本棚に入れています
本棚に追加
その声を発したのは人混みの中から頭二つ分飛び出た、マグマのように真っ赤な髪を逆立たせている1人の男子生徒だった。
僕に絡んでいる不良達と同じように制服のボタンを全て開けている。なのに彼の方からはだらしない印象を受けない、むしろこっちが間違いで向こうが正しいような気さえする程だ。それほど彼の格好は似合っていた。
彼は三白眼を吊り上げ、不機嫌そうな顔をしたまま人混みをかき分けこちらへずんずんと進んでくる。そして野次馬が完全に道を作り上げて彼の邪魔をしなくなった頃に、彼はポケットに手を突っ込んだまま不良達の目の前に到着した。
「オイ、なんだよテメー! こいつを助けるつもりかぁ!?」
「なんだそりゃ、お前も痛い目に逢いたいのか!? ひゃひゃっ、もしかして正義のヒーローにでも憧れ――――グアッ!?」
不良その2――僕を掴んでいない方の不良、不健康的な身体つき――が喋った瞬間、彼はなんの躊躇いもなくその顔を殴りつけた。殴られた不良その2は自分達が兄貴と呼んでいた人物の足元までふっ飛んで滑り、そして気絶したのかピクリとも動かなくなった。
あっという間の出来事に誰も反応しない。そしてしばらく固まっていた不良その1が気づいたように僕を離し、声を荒げて彼に向かっていく。
「テメー何しやがんだ! こんな事して兄貴が黙ってねぇぞ!!」
「…………じゃない」
「はぁっ!? 何言ってんのか分かんねぇよ、ちゃんと喋れっつーの!!」
殴った手を再びポケットに突っ込みながら彼が何か呟く。その言葉はあまりにも小さすぎて誰の耳にも入らない。
そして殴られる事に注意しながら不良その1が近づいていく。すると今度は聞こえるように彼が喋る。
「俺は別に正義のヒーローに憧れてるわけじゃねぇ。ただ…………」
「あぁっ? ただ何だ――――ガッ!?」
近づいた不良その1を、今度は腹部に蹴りを入れて吹き飛ばす。上にばかり注意していた為に蹴りの反応が遅かったのだろう。そして蹴られた不良その1はその2と同じ末路を辿った。
「ただ…………お前らみたいな能無しのバカが気に入らないだけだ」
動かなくなった2人を見下ろし、吐き捨てるように答えた。
最初のコメントを投稿しよう!