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「おかーさん、もう行く時間?」
「ええ、向こうの方はもう準備できてるから、行きましょう、由芽ちゃん」
「はーい」
由芽はベンチから降りて、小走りで千鶴の方へ行き、ぎゅっと抱き付いた。
千鶴は抱き付く由芽の頭を優しく撫でて、手を差し出すと由芽は嬉しそうに手を繋ぐ。
そんな光景を恭也は不思議そうに見ていた。
「あ、おにーさん!」
「ん?」
くるっと由芽は振り返り、手に持っていた紙をひらひらと振った。
「この問題必ず解いて明日持っていくねー!」
「あ、あぁ……分かった」
問題は宿題にするらしい。
「じゃーね、おにーさん、また明日ー」
「はいはい、じゃあな……」
ぱたぱたと手を振る由芽に恭也は小さく手を振り返し、お辞儀をする千鶴には軽く会釈をした。
「………………」
手を繋いで帰る二人の後ろ姿が視界から消えるまで、恭也はただじっと見ていた。
(……検査、か)
由芽がこの公園からいなくなると、辺りは静けさを取り戻す。
木々が風に揺れる音だけが、この公園に流れていた。
「…………あ」
ふと、恭也はある事に気が付く。
“この問題必ず解いて明日持っていくねー”
「しまった……」
ナチュラルに明日会う約束をしてしまった……。
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