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時刻が8時10分を過ぎた頃。
恭也は昨日着ていた自分の服に着替え、鞄を持って玄関で靴を履き終えていた。
服も鞄も靴も完璧に乾いており、これら全ては千鶴のおかげである。
「霧島さん、忘れ物はありませんか?」
ご丁寧に玄関まで見送りに来た千鶴に恭也は頷く。
「あ、はい、色々とお世話になりました」
「ふふ、そんなにかしこまらなくてもいいんですよ」
「はぁ……あ、そういえば由芽の姿が見えませんけど」
由芽の事だから、てっきり見送りに来るのではと思っていた。
しかし、由芽の姿はない。
「多分、霧島さんが出掛ける事に気付いていないからだと思いますよ」
「そうですか」
「呼びましょうか?」
「いや、色々と面倒な事になりそうなので結構です」
泣きついたりでもされたら、対応に困る。
ならば、気付かれない内に出掛けるのがベストな選択だ。
「……そういえば、千鶴さん」
「はい、何でしょう?」
「由芽はさっき今日は検査があると言ってたんですが、あいつは体調でも悪いんですか?」
知ったところで意味はない。
しかし、どうしても恭也はこの家を去る前に疑問を解消したかった。
だが、この質問をして分かった事は――
「由芽ちゃんは少し風邪を引いているだけですよ」
優しく微笑む千鶴が、はっきりとした嘘をついている事だった
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